大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和24年(新を)1792号 判決 1950年3月25日

被告人

柴田一郎

主文

本件控訴はいづれもこれを棄却する。

理由

前略。犯罪に対する被害者の告訴権は刑事訴訟上附与された権利であつて、告訴を俟つてその罪を論ずべき、いわゆる親告罪については、告訴の存在は公訴提起の前提条件であり、その法律関係は国家と被害者との間に存する公法上の関係である。告訴権は、その権利の性質上、法が特に之を認める場合の外はたとい被害者たりともこれが自由処分を許さざるものと解すべきであるところ、告訴の取消については、刑事訴訟法第二百三十七条第一項に於て、公訴の提起があるまでこれを取消すことが出来る旨規定しているに拘らず、これが抛棄については何等の規定がないこと等から考えてみると、告訴権はこれを抛棄し得ないものと解するのが相当であるから、吾が現行法の下では、犯罪の前後を問はず前記告訴の取消を除くのほか、告訴については抛棄等これが自由処分を許さざる趣旨であると断ぜざるを得ない。果して然らば告訴人上野淳子と被告人等三名との間に成立した前記告訴前の示談によつて、被害者たる同女に告訴権抛棄の意思があつたことが認められないわけではないが、以上の理由により右示談の成立によつて告訴権抛棄の効果を発生さすものとは到底理解することが出来ないから、その後に於ける被害者の前記訴は有効であつて、本件公訴提起は訴追条件を具備する適法なものと言わなければならない。なお、同女が原審裁判長に対し、先に為した告訴を取り消すべき旨の書面を提出していることも亦前説明のとおりであるが、告訴の取消は、公訴の提起前、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれを為すべきこと、刑事訴訟法第二百四十三条第二百四十一条第一項第二百三十七条第一項の各規定に照し明かであるから、公訴提起後、而も検察官又は司法警察員にあらざるものにたいして為された右告訴の取消も亦、その効なきものは論を俟たざるところである。従つて本件公訴は適法であつて、何等所論のごとき訴訟手続についての法令の違反はない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例